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誉清とオカマ(5)

そう、誉清はかつて一度だけ過ちを犯しそうになったことがあります。
それは北海道へもどる前の、東京の劇団研究生だった時です。
同じ劇団に一番仲が良かった友達Jがいて(NHKの朝ドラに出たりします。)彼が新宿に詳しいのでよく一緒に飲みに行きました。
ある時、新宿二丁目のショーパブへ勉強のために観に行って、その帰りに寄ったバーに若いオカマの子がいました。
アキラといって、スタイルのいい男の子という感じで、髪型もボーイッシュなショートカットです。
服装も普通の男の子のようで、強いて言えば白いシャツの襟が丸く、スーツの上着も襟が小さくて少し華奢な造りです。
声は女の子に比べれば少し低めですが、話をすると中身は全て女の子というのが分かります。
その時は何も感じないで飲んで帰ったのですが、研究生仲間に話したら女の子何人かが新宿2丁目に行きたいということになって、Jと私と女の子5人で別の日に再び飲みに行きました。
アキラのいる店に行って皆で飲んでいたのですが、アキラは一向に近寄ろうとはしません。
しばらくして、アキラが意を決したようにツカツカと歩いて来て、5人の女の子の真向かいの席に座ると「あなたたち、5人ともブスね！」というので、
冗談を言っているのかなと思い顔を覗くと、真剣な眼差しで睨みつけています。
私が「おい、いきなり何だよアキラ。それは、いくら何でも失礼だろう」と言うと「本当のことを言っただけよ！」とだけ言って店の奥のカウンターに戻って行きました。
劇団ですから5人は一応女優を目指しているわけで、世間一般では美人と言われてもおかしくないぐらいの子達です。
奥でサーバーからビールをついでいるアキラを見ると明らかにご機嫌斜めのようで、イライラしているのが分かります。
ただでさえ自分は身体が男なので敵わないと思っているところに、可愛い女の子が5人も来て自分の感情が抑えられないようです。
そんなアキラを見ていると、急にいじらしくて可愛く見えて、酔っていたのか帰り際に私は「アキラ今日俺と寝てくれ」と言ってしまいました。
アキラはちょっと考えたあと「イ・ヤ・よ」と答えたのでした。
でも、それで良かったのです。
これが、もし「イ・イ・わ」だったらどんなことになっていたのでしょうか…。