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続魂みがきの人たち(6)

十数年ぶりの飛び込み営業
基本、私は飛び込み営業が得意です。いや、得意だったはずでした。
今回の営業を始める前までは、長いこと社長業をやっていたから最初はカンを取り戻すまでちょっと時間がかかるくらいに考えていたのですが。
しかし、実際売りに出てみたら、営業マンとして飛び込む勇気が出て来ないのです。
三日も車で市内をウロウロしているだけでした。
会社が潰れて、自己破産して、もう自分にはプライドなんか欠片も残っていないと思っていたのに。
倒産する前は、三つの会社の社長として数十人の社員がいて、空港ではエグゼクティブラウンジを使って。
ダイナースカードで赤坂のクラブで飲むのが自分でした。
その姿こそが自分だと思っていたのです。
ところが今は、営業で知らない会社に飛び込む勇気も無く、パンフレットを持ったまま震えている一人の哀れな中年セールスマンの姿なのでした。
昔のようには飛び込めないことで、捨てしまったはずのプライドがまだまぼろしのように自分の中に住んでいることを思い知らされました。
夕方、販促の資料を取りに行くとHY社長に呼び止められました。
「どうだい？売れそうか？」「まだ、なかなか感触がつかめなくています」
度胸がなくてほとんど飛び込めて無いとはとても言えません。
「そうか。いや、そう簡単には売れないよ。
今日はこれから時間あるか？ツボ八で販売方法について打ち合わせしよう」
社長の夕食はほぼ毎日ツボ八のようです。
ツボ八の店長も社長と顔を合わせるのは日課のようで、今日の刺身はこれがお勧めですと社長には特別に用意しています。
社長は活性水素水の機械について、北海道の総代理店になった経緯や、それを飲みつづけて自分の糖尿病が治ったという話をしてくれました。
それから、また前回のようにお互いの過去の話になり、私が銀座のT社長の話(魂みがきの人たちに出てきたT社長です)をしたら
「いやあ、その話は本当に面白い。お前と酒飲むと本当楽しいなあ」と言ってまたご馳走してくれました。
この日から夕食を社長と一緒にすることが増えました。