桜の咲く頃になると
思い出すことがあります。
春が訪れる度に
砂時計のように
心の中に少しずつ
想いが積もっていきます。
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中学校の入学式。
体育館は職員室の上の二階にありました。
期待と不安。
ぶかぶかの制服と学生帽。
ちょっと寒かったのですが
知らない人ばかりの中で
緊張して汗をかいていたのを思い出します。
数日が経ち、
ようやく教室の場所に慣れてきた頃
急に担任の先生から
職員室に来るように
言われました。
先生「お父さんが体調崩されて
入院されたらしいんだ。
今から先生が連れて行ってやるから
車に乗りなさい」
私 「はい」
車の中では先生と
和やかに父の話をしました。
そのころ私は父と
あまりうまくいっていなかったのですが
先生にはそのことは話しませんでした。
病院に着くと
警察の車が来ていました。
そして人目もはばからず
母が大声で泣いていました。
警察が母を尋問していましたが
パニックになって泣いている母には
何もきこえないようでした。
遠い親戚のおばさんが
私のそばに来て
「お父さん、亡くなったよ」
と言いました。
心筋梗塞とのことでした。
父は36歳でした。
その頃、
私は父のことが
好きではありませんでした。
数年前から
父の心は私から離れてしまって
私の心も父から離れてしまっていました。
お葬式のときは
涙が出ましたが
その後は、
父への怒りの感情しか
感じませんでした。
けれども、
そんな風に思うことは
いけないことだと思っていたので
自分自身に対しても
その感情を隠していました。
…反抗期だったのかもしれません。
3月に12才になったばかりだったので
今から25年以上前のことです。
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数年前の春、
車で川沿いの夜桜のトンネルを
通っていました。
するとカーラジオから
Mr.Childrenの
「花の匂い」という曲が
流れてきました。
何気なく聞いていたら
急に涙がとまらなくなりました。
そして父に会いたくなりました。
会いたくて
会いたくて
たまらなくなりました。
なくなってから
20年以上経っているのに
私は12才のころの自分に
戻っていました。
心の中で何度も
「おとうさん、おとうさん」と
叫んでいました。
「おとうさん、会いにきて。
好きでなくてもいい、喧嘩してもいい。
それでもいいから会いにきて」
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いま、同じ桜のトンネルを通ります。
季節の移ろいを感じる度に
父のことを思い出します。
私が父と向き合うことができたのは
亡くなってずいぶん経ってからです。
生きていた頃には
心を通わせることが出来ませんでした。
今では父と会話もするようになって
当時の父の気持ちが伝わってきます。
生きていたときに
こうして心を通わせることが出来たら
いろんなことは違っていたのかもしれません。
生きているからこそ
出来ることがある。
今年も河岸の桜色の風が、
父からのメッセージを運んでくれています。
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